ビゴのテキストが少々おいてあります。(ロジャドロ中心です) 原作者様・制作会社様とは一切関係はありません。
桟橋に膝をついて、涙の熱だけを頬に感じながら、静かに冷えていく体を抱いて。彼女の最期の言葉の意味を永遠に理解できないままにこれからもこの光景を夜ごと夢に見て、そのたびごとに苦しむ事が定めづけられていると知っていた。
銃弾が発射され、強い反動を腕に受けた瞬間に、濁流のように彼女との数々の記憶がよみがえった。何が先で何が後なのかも判別できない程に入り混じった情報がなだれ込んでくる。そのすべてが確かに体験したとしか考えられないほど鮮やかに生々しく、同時に体験したはずのないもので、彼は記憶の混乱の渦中に投げ込まれ、呆然と立ちつくした。
青ざめた彼女が、それでも確かな意志をこめた厳しい顔つきで高らかに宣言する映像を、暗い部屋で部下と共に見せられた。彼女を殲滅すべき敵の一員として見なくてはならないことを、どう理解していいかわからなかった。
思いがけない形で再会したのはあの映画館の前、雨の夜で彼女は傘を持っていなかった。
立場上許されぬと知りながら、投獄された彼女に幾度も会いに行った。
彼女の支援者に犬とののしられた。背にひとつふたつと石が投げつけられたが、あえて振り返らなかった。
細い格子ごしに手が伸ばされて、殴られた目の縁の痣を細い指がなぞった。
部屋で向かい合って食事をしている時に、彼女が身を乗り出しキスをしながら銀貨についてなにか問い掛けて、自分は怒り傷ついた。
カフェで本を読み、一部の仲間とだけ話すようになった学生時代の彼女を、職についたばかりの時に時々見かけた。彼女はいつも不安な顔をしているように思えた。
懐かしいと言うより悲しいだけ、そういった風情の記憶の群れ。
夜空に光がきらめいて、空気が爆弾の衝撃を伝えてきた。頭のどこかにしまいこまれていた記憶が銃声と共に宙に吸い込まれ、あとに残されたのは桟橋に倒れ伏したひとりの女の姿と、白い息を吐いて立つ自分だけだった。肩で息をするごとに、残滓さえ虚無で塗りつぶされるように失っていく。眩暈がする。
彼女の方へ足早に向かいながら、彼は殴られたように痛む頭で、先ほどまで彼を強く捕らえていたなにかを思いおこそうとしたが、うまくいかなかった。あれほど鮮やかだった記憶は砂にしみ込む水のように消えていった。
今この時に、なにかがひと時彼の元へ帰って来て、懐かしい声でさようならを言い、そして再び去って行った。焼けるような喪失感があり、けれどそれもなじみ深く悲しかった。
抱き起こす前にもうわかっていた。自分の記憶同様に彼女はひと時帰って来て、そして去って行くのだ。残るのは彼女を撃った罪の意識と悲しみと、やりきれない夜々と、過去に取り残された自分だ。
ダストンとシベール断章。今の時点では、この話を書き上げることはできないと思っています。彼らが本当はどんな関係だったのか、想像するのは楽しいのですが。
銃弾が発射され、強い反動を腕に受けた瞬間に、濁流のように彼女との数々の記憶がよみがえった。何が先で何が後なのかも判別できない程に入り混じった情報がなだれ込んでくる。そのすべてが確かに体験したとしか考えられないほど鮮やかに生々しく、同時に体験したはずのないもので、彼は記憶の混乱の渦中に投げ込まれ、呆然と立ちつくした。
青ざめた彼女が、それでも確かな意志をこめた厳しい顔つきで高らかに宣言する映像を、暗い部屋で部下と共に見せられた。彼女を殲滅すべき敵の一員として見なくてはならないことを、どう理解していいかわからなかった。
思いがけない形で再会したのはあの映画館の前、雨の夜で彼女は傘を持っていなかった。
立場上許されぬと知りながら、投獄された彼女に幾度も会いに行った。
彼女の支援者に犬とののしられた。背にひとつふたつと石が投げつけられたが、あえて振り返らなかった。
細い格子ごしに手が伸ばされて、殴られた目の縁の痣を細い指がなぞった。
部屋で向かい合って食事をしている時に、彼女が身を乗り出しキスをしながら銀貨についてなにか問い掛けて、自分は怒り傷ついた。
カフェで本を読み、一部の仲間とだけ話すようになった学生時代の彼女を、職についたばかりの時に時々見かけた。彼女はいつも不安な顔をしているように思えた。
懐かしいと言うより悲しいだけ、そういった風情の記憶の群れ。
夜空に光がきらめいて、空気が爆弾の衝撃を伝えてきた。頭のどこかにしまいこまれていた記憶が銃声と共に宙に吸い込まれ、あとに残されたのは桟橋に倒れ伏したひとりの女の姿と、白い息を吐いて立つ自分だけだった。肩で息をするごとに、残滓さえ虚無で塗りつぶされるように失っていく。眩暈がする。
彼女の方へ足早に向かいながら、彼は殴られたように痛む頭で、先ほどまで彼を強く捕らえていたなにかを思いおこそうとしたが、うまくいかなかった。あれほど鮮やかだった記憶は砂にしみ込む水のように消えていった。
今この時に、なにかがひと時彼の元へ帰って来て、懐かしい声でさようならを言い、そして再び去って行った。焼けるような喪失感があり、けれどそれもなじみ深く悲しかった。
抱き起こす前にもうわかっていた。自分の記憶同様に彼女はひと時帰って来て、そして去って行くのだ。残るのは彼女を撃った罪の意識と悲しみと、やりきれない夜々と、過去に取り残された自分だ。
ダストンとシベール断章。今の時点では、この話を書き上げることはできないと思っています。彼らが本当はどんな関係だったのか、想像するのは楽しいのですが。
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