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ビゴのテキストが少々おいてあります。(ロジャドロ中心です) 原作者様・制作会社様とは一切関係はありません。
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好きシーンで創作30題 『01 髪を梳く』 ロジャドロです。
*こちらからお借りしました → 好きシーンで創作30題

 

屋上は風が強く、彼女の髪を揺らしていた。私はひざまずいて小さな頭を抱いていた。腕の中で彼女の見開かれた瞳は曇天を映していた。名を呼ぶ声に答えはなく、額に虚ろな孔を開けた彼女の姿はひどく無防備に見えた。
すぐにでも執事に連絡をして、彼女を連れて帰らなくてはならないとわかっていた。ここでなく、彼女のいるべき場所、私が彼女にいて欲しいと願うあの場所へ。そして有能な執事に彼女を託すのだ。出来る限りの処置をして彼女を。
元に。

けれどなぜか立ち上がれなかった。失われたメモリーに触れたいかのように、まるで強く抱き寄せたいかのように、私のまなざしと指が彼女の上をさまよう。
指の腹で彼女の頬に触れると、止められなくなった。髪を撫で、細く柔らかい流れにそって指をすべらせる。高い頬骨に、顎に、なめらかな額に、華奢な咽喉に、薄い唇の端に――。

心を捕えていたのは怒りでも悲しみでもなく、混乱だった。こんな風に彼女を失うとは思ってもみなかった。ずっと傍にいると信じて、疑いもしないでいた。

Dimidium animae meae.

彼女の声を聞いた気がして思わず口元を見た。動いているのは風に流される鳶色の髪ばかりだった。メモリーを奪われたアンドロイドが動けるはずもないのだから。彼女の声よりもっと生々しく、もっと揺らいだ、聞いたこともない彼女の声だった。彼女の発したはずもない、意味もわからない言葉。

これは妄執なのか。空耳と知りつつ、必死で彼女の声の名残を辿ろうとするこの思いは、私の憎んできた記憶に寄りかかる行為ではないのか。今なすべきことはむしろ彼女を取り戻すために動くことなのに。

こんな風に彼女に触れたことはなかった。そして今になって初めて、思い出を惜しむかのように触れるそのことを、彼女に許して欲しいと思った。

(20040407)
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