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好きシーンで創作30題 『11 生む』 エン
*こちらからお借りしました → 好きシーンで創作30題


どこか遠くで雨が降っている気配がする。この世界を外から濡らす雫が、心を打っている。

彼女は目を開ける。耳を澄ます。光のささず音もない闇は、湿りけを帯びて彼女を包んでいる。何も見えず何ひとつ定かでなく、自分の体も意識も闇に溶けたよう、しかし同時に満ち足りたようにも感じられる。
つい先ほど、彼女は自室の寝台に横たわって目を閉じて、そうしてここへ来た。ドアを開ける必要もなく、もちろん地下へ下る必要もなくただ沈み込むように、世界を形作る無意識の領域へ辿りつく。
そこは彼女の心、その深い闇。人々に恐れをもって認識され、その闇にあえて触れるものは罰を受けなくてはならない、この世界の成り立ちに近づくのは許されぬことゆえに。
この場所で彼女の力は目覚める。ここでなら彼女はすべての記憶を解放し封印できる。事実も想像も、あったこともなかったことも、形を歪め引き伸ばし切り貼りして、この世界の神として彼女は采配を振るうことができる。
しかしひとたび地下を離れれば、彼女は闇を忘れてしまう。彼女自身が闇とその対になる世界とを創造したことを思い出せなくなる。自分が作り出した闇を恐れさえする。自分の心を守るために。

物語には新たな事件が必要なのはわかっていた。闇に近づいた彼と少女とが、再び地下に向かうことのないようにする必要もあった。
そして彼らを互いから引き離したくもあった。この世界でも彼は自分を選ばないのだ。
どうすればいいのだろう。どんな謎を彼に追わせればいいのだろう。どんな出来事が、この認めがたい関係を覆せるだろう。
どうあれば、彼は私を。

雨が濡らすのは、目を閉じた体が眠る部屋の窓や屋根だろうか。それとも体の中に閉じ込められた、世界そのものだろうか。

『人でなく』、『記憶も心も持たず』、『何もない世界で会ったとしても』、『愛することもかなわない存在になっていても』。
それでも彼は自分でなく少女をそばに置き、心を近づけていった。
……それならば、もしも少女が彼の敵で、彼に害をなすものだとしたらどうだろう。パラダイムを治める愚かな王の手先だったら。いいえ、少女自身が悪である必要もない。同じ姿で彼に疑念を与えるだけでいい。
わかっている、これは悪しき考えで、望んだり試したりしてはならない罪深いこと。
しかしこの世界で一体誰が罰すると言うのか。この世界の成り立ちは誰にもわからない、パラダイムの神が誰であるか、知る者はいないのだ。

『もしもお前を見たものが生きているなら、お前の話はまるきり嘘だ。
死んでいないならその者はお前を見てはいないから、
死んでいるのなら見たと言うことさえ出来はしないから』

闇の中小さな赤い光が生まれる。揺らいで広がり、細い少女の影を浮かび上がらせる。伝説のバジリスクのように、その影は命を奪う。この闇からすべてが始まる。
半ばのめりこむような一途さで、彼女は世界に自らの物語を問う。

ロジャー・スミス、あなたは闇の中で私の生み出す謎に、まなざしの毒で周囲に死と荒廃をもたらす緋色の影に出会う。その影が、身近に置いた少女の姿をしていると理解した時、あなたはどうするだろう。

さあ目覚めなさい、神に見捨てられた哀れなバジリスク。お前の姿を見た者に死を与えなさい。
瞳を閉じた彼女の心の底、雨の音を世界に満たして。
地下深くの闇の中で、少女の姿をした機械仕掛けのバジリスクを閉じ込めた檻が、開く音がした。

*文中引用『El Basilisco』 Quevedo(意訳)
(20060324)

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